頭の体操も兼ねて、作品にもならないような小ネタを置いていきます。
無事に作品として形になったものはサクサク消していく予定。
【恋したくなるお題(配布)】様より「キスの詰め合わせ」お題です。
<キスの詰め合わせ>
1.始まりの合図のキス
2.言葉を封じるキス
3.目を逸らした隙にキス
4.キスがその答え
5.君からのキス
6.指切りの代わりにキス 2016/1/3済
7.温度差のあるキス
8.通信終了後の携帯にキス
9.キスの前にお願い一つ
10.薬指にキス番外1.キスとキスの合間に(微エロなお題) 2015/12/31済
番外2.不意打ちなキス(無邪気な君へのお題)
番外3.痛む場所にキスを(嫉妬まじりの恋のお題)
ノリと勢いだけで書きます。誤字脱字なんて気にしない。特に記載がない限りはバンエレです。
10.薬指にキス 最愛にして、狂愛。
薬指にキス
美化なんて、とんでもない。彼女を前に、バンはそう思った。
「その傷、どうしたの?」
エレインが指でつつく、彼女の頬には傷ひとつない。ふっくらとした左頬で、小さく持ち上がった唇の端が懐かしかった。
会いたかった。キングの手前か、性格か、素直にそう言い出せないバンは顔を背けて、口を曲げた。
「ケッ、あの世からは何でも見えてんじゃねーのかよ」
見ていただろう。知っているはずだ。エレインを喪ってからのバンの二十年を。彼女を、忘れようとしてきた二十年を。
「どうして来てくれたの?」
それを問うのか。
忘れようとした。二十年だ。獄に繋がれ、使役させられ、濡れ衣を着せられながら、彼女のために何一つなすことのなかった二十年だ。すべてを知ってなお、彼女はバンの言葉を求めるのか。
「一言言いに来ただけだっつの」
お前を忘れて生きる。赦してくれ。
バンが用意したのは、彼女への想いを断つ言葉。もはや虫の息の、この恋を終わらせて、彼女の魂を解き放つ。
死者の都が本当にあるのなら。そこに辿りつけるなら。彼女の魂がまだ自分に繋ぎとめられているのなら。すべての仮定が証明された瞬間ほど、一生事の恋を終わらせるにふさわしい舞台はないと、バンは決意を秘めてこの場所にいる。
俺はお前を忘れて生きていく。だからお前も、俺を忘れて自由になれ。いうべき言葉はそのはずだった。
けれど、彼女の唇が自分のそれに触れた刹那、バンの渾身の一撃であった言葉は石と共に砕け散った。もはや意味をなさない言葉のカケラを、気違いじみた確信が圧倒する。
エレイン。エレイン、エレインだ!
重ねた肌、香る匂い、頬を掠めた金髪の先にまで、彼女が溢れていた。しょせん記憶に蘇る姿は美化された思い出と、どこかで自分の弱さを守ろうとしていたバンを嘲笑うかのように、鮮烈に蘇る。五感から流れ込む何もかもが、あまりにも彼女だった。
そうしてバンは繰り返し思い知る。美化なんて、とんでもないと。こんなにも多くの彼女を、忘れかけていたことに愕然となる。驚きは恐怖だ。再び目の前にある愛しいものを、喪う恐怖。恐怖はバンの敵で、敵に抗う武器はいつだって<強欲>な心だった。飢えへの恐怖、寒さへの恐怖、暴力への恐怖に、立ち向かう力をその意志はくれた。
返せ。エレインを、返せ。
彼女を望む<強欲>に、頭が爆発しそうだった。
「いつか必ず、お前を奪う」
忘れようとした。それは事実だ。忘れよう、忘れようとして、忘れきれずにここに来た。彼女のためではなく、自分のために。どうか俺を自由にしてくれと、この恋なら返すからと、惨めったらしく助命嘆願に膝をつきにきたはずの男は、まるで逆さまな想いを口にする。
欲しい。欲しいのだ。のたうちまわるほどの痛みと引き換えにしても、欲しいものがここにある。
『どうして人間は強欲なのかしら』
今も昔も、エレインは正しい。
薬指にキス≒プロポーズ≒「いつか必ず、お前を奪う」ってことで(強引)
2016/1/6 Ban × Elain by hirune wahiko
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