頭の体操も兼ねて、作品にもならないような小ネタを置いていきます。
無事に作品として形になったものはサクサク消していく予定。
【恋したくなるお題(配布)】様より「キスの詰め合わせ」お題です。
<キスの詰め合わせ>
1.始まりの合図のキス
2.言葉を封じるキス
3.目を逸らした隙にキス 2016/1/14済
4.キスがその答え
5.君からのキス6.指切りの代わりにキス 2016/1/3済
7.温度差のあるキス
8.通信終了後の携帯にキス 2016/1/22済
9.キスの前にお願い一つ
10.薬指にキス 2017/1/7済
番外1.キスとキスの合間に(微エロなお題) 2015/12/31済
番外2.不意打ちなキス(無邪気な君へのお題) 2016/1/10済
番外3.痛む場所にキスを(嫉妬まじりの恋のお題)
ノリと勢いだけで書きます。誤字脱字なんて気にしない。特に記載がない限りはバンエレです。
5.君からのキス バンからエレインへキスをひとつ。
バンが唇を離したとき、彼女は泣いていた。
君からのキス
どうして泣くんだ。エレインの泣き顔に、バンは無性に腹が立った。次に、自分のしたキスが、ひどくまずいものだったかと不安になった。彼女に自分からキスをした、そのこと自体に後悔はなかった。
キスは、好き合う者同士のすることだ。バンがエレインを好きなことは、自分のことだから疑いようがなかった。エレインがバンを好きかどうかは、彼女を見ていればわかる。あの熱い金色の眼差しに、何の意味もないなんて言わせない。
下手だったのか。だからって、泣くことはないじゃないか。バンはまた腹を立てる。さっきよりは、情けなさの混じる怒りだった。なにせ初めてのキスだったのだ。生まれてこの方、誰かにキスしたいなんて思わなかった。エレインが初めてだった。夢中だった。唇を、合わせることしか考えなかった。それがいけなかったのだろうか。
バンは正しいキスの手順を知らない。それどころか、好意の正しい伝え方も知らなかった。
「ごめんなさい」
エレインは呟いた。消えて、なくなりそうな声だった。声だけでなくて、彼女まで小さくなって消えてしまいそうなほど、肩を震わせて泣いて謝る彼女は頼りなかった。そうまでしてまで、彼女が口にした謝罪の意図を、バンは考えようとしてわからないまま眉を顰めた。
俺は、間違えたのか。
バンの頭にひらめいた、答えはシンプルにして破滅的だった。エレインはバンが好きだ。それに間違いはなくとも、好きの中身がバンが期待した通りとは限らない。エレインからの好意の、受け取り方をバンは間違えたのか。好きだという気持ちの伝え方も、キスのやり方も知らないバンだ。気持ちの受け取り方を、間違えていても不思議ではない。誰かから好意を貰う機会に、バンはまるで恵まれていなかった。
嫌われ者。バンはいつでもそう呼ばれた。手癖の悪さがいけないのだろう。ただそこに立っているだけで、向けられる悪意は見てくれのせいなのか。バンの顔が、体つきが気に入らないのなら、文句は親に言って欲しかった。だいたいその親がろくでなしだった。ろくでもない親から生まれたら、きっとその子もろくでなしだ。そう扱われるのが世の習いだ。
そのろくでなしに、勘違いされ、キスされた、エレインのことをバンは想った。かわいそうに。1000歳だろうと、妖精族の姫だろうと、女の子には大切なことだったろうに。本当に、かわいそうなことをしてしまったのだと、バンは遅すぎる後悔に息が苦しい。
「……忘れていい」
犬に噛まれたと思って。
エレインは何も悪くないから。
泣くな。
バンの想いに反して、エレインの瞳からまたひとつ、涙がぽろり。ぽろり、ぽろり。金色の大きくてつぶらな瞳が、涙に溺れていた。彼女を泣かせたくないのに、涙のぬぐい方をバンは知らない。本当に、知らないことが多すぎた。
エレインの手がバンに伸びる。頬を一発二発、殴られたって受け止める。小さな手はバンの頬に触れたけれど、痛みはない。小刻みに震える手にバンが痛んだのは、心だった。
ごめんな。ごめんな、エレイン。
泣かせるつもりじゃなかったんだ。
ただ好きで、理由もわからないまま好きで、どうしてだかエレインでなくてはだめで、彼女もそうならいいと、きっとそうに違いないと、なれない優しさに舞い上がったのがいけなかった。今更時間はまき戻せないから、せめてなかったことにと願えば胸が痛い。痛くて痛くて、バンはぎゅっと目をつぶった。
まぶたの暗闇に、感じたのはあたたかい息と柔らかい感触だった。唇に、何かが重なっている。胸の痛みがすっと吸い上げられ、跡形もなく消えた。
「びっくりしたの」
上げたまぶたの向こうに、エレインの赤い顔。彼女はもう、泣いてはいなかった。
「初恋は、実らないって言うでしょ」
そんなジンクスは知らない。どうでもいい。
「いきなり泣いちゃって、ごめんなさい」
バンからのキスと、エレインからのキス。一体どちらが初恋が実った証なのか、バンはそればかりが気になった。
2016/1/23 Ban × Elain by hirune wahiko
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