頭の体操も兼ねて、作品にもならないような小ネタを置いていきます。
無事に作品として形になったものはサクサク消していく予定。
【恋したくなるお題(配布)】様より「キスの詰め合わせ」お題です。
<キスの詰め合わせ>
1.始まりの合図のキス
2.言葉を封じるキス
3.目を逸らした隙にキス 2016/1/14済
4.キスがその答え 2016/1/24済
5.君からのキス 2016/1/23済
6.指切りの代わりにキス 2016/1/3済
7.温度差のあるキス
8.通信終了後の携帯にキス 2016/1/22済
9.キスの前にお願い一つ10.薬指にキス 2017/1/7済
番外1.キスとキスの合間に(微エロなお題) 2015/12/31済
番外2.不意打ちなキス(無邪気な君へのお題) 2016/1/10済
番外3.痛む場所にキスを(嫉妬まじりの恋のお題)
ノリと勢いだけで書きます。誤字脱字なんて気にしない。特に記載がない限りはバンエレです。
9.キスの前にお願い一つ ざばん。
後ろからバンが、泉に飛び込む音が聞こえた。
キスの前にお願いひとつ
「絶対に、見ないで」
それがエレインがバンに示した、一緒に水浴びをする条件だった。これを告げた時、バンはきょとんとした目でエレインを見下ろしていた。
「お前の裸、何べんも見てっけど」
お前が「死んでる」間、妖精王の森で。バンのいらない解説に、エレインはカァッと頬を赤くした。
メラスキュラの魔力に魂を汚染され、蘇ったときが「そう」だった。だから、目の前の恋しい男(ひと)に何もかもを見られてしまっている予感はあった。それでも、彼の口から直接聞かされると恥ずかしさは募る。
「だめよ、見ちゃ」
「おう」
「ホントよ」
「わかったって」
ざばざばと揺れる水面の波がエレインを追い越していく。調子のいい返事のわりに、水中をエレインに元に一直線で歩いてくる彼の迷いのなさに疑念がよぎる。いくら首まで水に浸かっていても、肝心の水が透明ならなんの覆いにもならないのだ。
エレインは、自分の体に自信がなかった。意識し始めたことが、最近だった。
バンと出逢う前は、肉体の優劣や容姿の美醜を意識したことがなかった。彼と死に別れたあとは、死者の都で彼のことを見守る日々で、やはり自分の見た目の良し悪しに疑問を持つことはなかった。そんな彼女に、自分の見てくれがバンの目にどう映るのか、気にさせるきっかけになったのは、彼を好きだという人間の女の子だった。
一生懸命で、まっすぐで、可愛い彼女は、エレインとはまるで違う体つきをしていた。
「私って、可愛いと思う?」
死者の都で出くわす死者に、尋ねて回ったのは不安からだ。
「お姉ちゃん、天使みたい」
そう言って笑ってくれたのは、つり目がちな、リボンの似合う小さな女の子だ。笑った顔がバンに似ていた。彼女のおかげで、胸に巣食った不安は軽くなった。けれど、決してなくならないその気持ちは、魔神族の格好の標的になった。
「つるぺたん」
「チビ」
ジェリコの言葉は、エレインの不安に形を与えた。バンに釣り合うこと、バンの好みに近づくこと、どうしようもないことばかりで、エレインはわかりやすい「形」を持ったジェリコを羨んだ。彼女みたいな、胸や背が欲しかった。
「ねぇ、やっぱり……!」
逃げようとした小さな体を、ざばん、波とともに長い腕が閉じ込める。強い力に引き寄せられて、背中にぴったりと張り付いたのはバンの胸板だった。
「照れんのは、かわいいんだけどよ」
バンは耳元で言った。大きな背中を折り曲げて、エレインの頭上を通り越した顔が水面に映っている。約束どおり、バンのまぶたは閉じられていた。
「せっかく一緒にいられんじゃねぇか」
突然の死と、20年の別離、そして魔神族との戦いを経て、二人はそろってここにいる。
「触れねぇのはもったいねぇだろ」
一秒だって、一瞬だって、離れているのが惜しいのだ。
「逃げんな」
抱きしめる、腕の輪が狭くなる。耳たぶに、落ちたキスが水滴を舐めた。
「嫌なら見ねぇよ、絶対に」
バンの飢えをまざまざと感じさせる、そんな願い。
会いたかった、会いたかった。会いたかった……!
エレインだって、それは同じだ。失った20年を、二人は必死で取り戻さなければいけない。
エレインは身をよじる。赦さないと、バンが抱きしめる力を強くする。逃げないからと、腕を撫でてなだめると、エレインはゆっくりと水の中でバンを振り返った。
「目を開けて」
魅力的に映る自信はまだない。それでも、20年ぶりにバンの紅い瞳に囚われた瞬間の歓喜が、エレインの胸に思い出されてはもう我慢できなかった。お前が欲しいと告げる、むき出しの、バンの強欲が欲しかった。
私を見て。かわいいって言って。つるぺたんな、チビでも良いって、あなたの口から聞かせて。
バンが目を開けたら真っ先に唇に飛びつこうと、エレインは静かにその時を待った。
2016/1/27 Ban × Elain by hirune wahiko
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